前回は、私のこだわりを出来る限り押し通した体験をお伝えさせていただきました。

その体験が代表するように、自分として違和感のある状況のなかで、もやもやした気持ちのまま過ごし続けたくはないという性分なので、自分の立場や職がどうなろうとも省みず、こだわりを押し通すことがこれまでの人生で度々ありました。しかし、今回は自分のこだわりを自分でごまかして行動し、結果として非常に苦々しい気持ちになった唯一といってよい体験をお伝えさせていただきます。

その出来事は、前回お伝えした体験の時から7~8年後のことだったと思いますが、その時勤めていた塾において、事務長さんのような立場の方から、ある頼み事をされたことから始まりました。その時頼まれたことは、ある新中学一年生の男の子から、授業料を受け取ってほしいとのことでした。

その生徒さんは小学生の時からずっと通ってきていた男の子であり、小学生の間はその事務の方が、直接その子から授業料を受け取っていたということでした。しかし中学生のクラスになったその当時、その方の仕事のスケジュールの都合で直接受け取ることが出来ないということで、担当教師になった私に、その生徒さんから月謝袋を回収してほしいとのことだったのです。

それだけなら何も問題のある頼まれ事ではありませんでしたが、詳しく話しを聞いていると、他の生徒さんは皆、自分から事務室の方へ月謝袋を持ってくるのだけれど、その生徒さんは以前からずっとこちらから声をかけないと月謝袋を渡してくれず、また持って来ているかどうかも自身で定かではないような頼りないところがあり、その度にカバンの中を自分で探させて月謝袋を手渡すようにさせていたとのことでした。

そういう事情なのでその事務の方は、その生徒さんに月謝袋を渡してくれるように声をかけるだけでなく、本人が持って来ていないと言ったとしても、カバンの中を探すようにさせてほしいと、私に頼まれたのでした。

その頼みを聞いた瞬間私は、本人の言っていることを信用せず、カバンの中を探させるということに対して、違和感と抵抗感が胸にサッと走ったのを感じ、即座に返答出来ませんでした。するとその事務の方は、これまでもずっとそうしてきており、その生徒さんも慣れていて何も問題はないので、是非協力してほしいと、重ねてお話になりました。その熱意に押され私は、心に生じている違和感と抵抗感を脇に追いやり、その依頼を受け入れたのでした。

その日の夜の授業で、私はその生徒さんに月謝袋を出すように促すことになりましたが、持って来ていないと言うので、出来るだけきつい言い方にならないように配慮しながら、カバンの中を探してもらうようにお願いしました。しかし、その日は本当に持って来ていませんでした。

そして、その次の日の授業前のことです。私に月謝袋回収の頼み事をされた事務の方がやって来て、前日のその頼み事に関して、非常に恐縮した様子で私に詫びられるのです。どういうことかと申しますと、私がカバンの中を探させた生徒さんのご家庭から、その件に関してクレームの電話があり、私の取った行動がその生徒さんに、とても嫌な思いをさせてしまったということでしたが、その事務の方は、御自分が依頼したということから、この件の責任は御自分にあり、私には何の責任もないので、気にしないで欲しいということをおっしゃられたのです。そのような流れで、この件に関して私には、会社から何のお咎めもありませんでした。

とはいうものの、私のこの時の胸中は、非常に苦々しい思いでいっぱいになっており、それはその事務の方や誰か他の人に向けられたものではなく、自分自身のとった行動に対してでありました。しかしもっと正確に言えば、その事務の方から頼み事をされた瞬間自分の中に生じた違和感、抵抗感をごまかさず、落ち着いてきちんと考えていれば、小学校時代には平気であったことだとしても、中学生になれば大人としてのプライドも生じ、平気ではなくなるということも考え及んだはずであり、そうであったならその生徒さんの心を傷付けずに済んだのだと思うと、その生徒さんに対する申し訳ない気持ちと、自分自身の甘さに対してのこの上なく口惜しい気持ちで心がいっぱいになっていたのでした。

私にとって、この出来事はその後、自分の中に生じた違和感や抵抗感に対して、さらに真摯な気持ちで向き合うことを促してくれる学びの体験ともなっており、気持ちよく晴れやかな気持ちで生きて行くためには、どんな立場や状況であろうとも、自分の心の声に誠実に耳を傾けることを決して忘れてはいけないということを再確認させてくれた貴重な体験ともなっています。

しかしこのように一生懸命語っていること自体、私独特のこだわりであるようで、上記の出来事を何人かの友人に話したことがありますが、仕事上のペナルティにならないでよかったな、というような感想が主流を占め、私のこの時の苦々しい気持ちの本質は、あまり伝わっていないように感じられました。今回このブログを読んでくださった皆様は、いかが感じられましたでしょうか?