人にはそれぞれ、その人特有の生きる上でのこだわりがあると思われるのですが、そのこだわりがどんなものであれ、本人にとってはそれが果たせないと心地悪く感じることが、共通していることのように思われます。

かくいう私も、もちろんそのようなこだわりがあるのですが、それは「自分にとって違和感のあることを、自分にさせない」ということです。そんなことなら、誰でもそうだと言う声が返ってきそうですが、私の場合、プライベートではもちろん、たとえ仕事においてでもそうであり、それがこだわりになっているということは、つまり、社会に出てから幾度となく職場の方針に異議を唱えたり、結果としてその職場を去るようなことも少なからずあったということです。

特に私の場合は長い間学習塾にて教育の仕事に携わっていましたので、生徒さんのためという教育的観点と利益追求を図る営業的観点との矛盾の中でそのような流れになってしまうことが多かったように思われます。

今回はそんな体験の中で、特に印象深かったことを2つ紹介させていただきます。

まず1つ目ですが、それは私が20年ほど前に勤めていた学習塾においてのことです。その塾に勤め出して1年ほどたったばかりだったと思いますが、ある日、私の勤めていた支部の私のすぐ上の上司にあたる次長さんから、私の担当クラスの生徒さん達から、つい最近学校で実施されたばかりの実力テストを回収するように指示されました。何の目的でかと尋ねたところ、その学習塾のかなり遠くにある他の支部の地域の中学校で毎年、私が勤めていた支部の地域の中学校と同じ問題が実力テストで後日出されるということであり、こちらで回収したテスト問題をその他の支部の生徒さん達にやらせることによって、その支部の実力テストの成績をupさせる目的だということでした。

私はそれを聞いた時、このようなことは学習塾の本来のあり方として、非常に本末転倒なことのように感じ、生徒さん達に対しても、信頼を裏切っているような感じがしましたので、その場で、このようなことはしない方がいいと思うし、少なくとも自分は協力したくないということを次長さんに告げました。しかし、その時の次長さんの返事としては「横岩先生がしたくないとか、したいという問題ではなく、これは仕事として毎年行われていることなので、ちゃんとやってください」というようなものでした。

私はモヤモヤとした気持ちを抑えながら、生徒さん達から実力テストを回収し、次長さんにそれを渡すことになったのですが、その後も、どうしてもモヤモヤした気持ちが収まらず、かといって次長さんに何を言っても考えてもらえそうになかったので、その2、3日後、次長さんを飛び越して、その支部の教室長さんのところへ直接、この件について話を聞いてもらいに行きました。

その時私は、学校の実力テスト対策についてのこのようなやり方は、会社のためになるとは思えないのでやめた方が良いと思うが、少なくとも自分としては、このことに協力したくないので回収したテスト問題を使わないでほしいと思っている、ということを伝えた上で、会社本部で行われる教室長会議で、私からこういう意見が出ていると伝えてもらいたいと、お願いしました。その時その教室長さんは落ち着いて話を聞いて下さり、最後に、自分もそう思うのでしっかりと会議で伝えさせてもらうと言って下さいました。

私に出来る行動はここまでであり、後は結果を天に任せるしかありませんでしたが、会社での立場が悪くなったり、場合によって辞めさせられる可能性も覚悟はしていたものの、教室長さんに思いを伝えられたことでかなり、気持ちはスッキリとしてきていました。

それから数日後、教室長さんから呼び出され会議の結果を告げられましたが、話し合いの末、回収した実力テストの他支部での使用は中止となり、今後もずっとこのような実力テスト対策はやめにすることになったとのことでした。私はそれを聞いた時、心の底から嬉しい気持ちが湧きあがったのを、今でも覚えていますが、この体験は私の「自分にとって違和感のあることを、自分にさせない」というこだわりから生じたかなり印象的な体験の1つとなっています。

後編へ続く